さびしい人格      萩原朔太郎

on-saturdays

2009年11月14日 12:00





  さびしい人格


 
さびしい人格が私の友を呼ぶ、
 
わが見知らぬ友よ、早くきたれ、
 
ここの古い椅子に腰をかけて、二人でしづかに話してゐよう、
 
なにも悲しむことなく、きみと私でしづかな幸福な日をくらさう、
 
遠い公園のしづかな噴水の音をきいて居よう、
 
しづかに、しづかに、二人でかうして抱き合つて居よう、
 
母にも父にも兄弟にも遠くはなれて、
 
母にも父にも知らない孤兒の心をむすび合はさう、
 
ありとあらゆる人間の生活の中で、
 
おまへと私だけの生活について話し合はう、
                                     
まづしいたよりない、二人だけの秘密の生活について、
 
ああ、その言葉は秋の落葉のやうに、そうそうとして膝の上にも散つてくるではないか。

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